ふきんとうだより

フォーク、藤井聡太、宮沢賢治、佐々木朗希、石川優子についてつらつら語ります

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宮沢賢治 『注文の多い料理店』のあらすじと伝えたいこと

見出し『注文の多い料理店』の伝えたいことを11/29に追記。
12/4に加筆修正。

あらまし

宮沢賢治の『注文の多い料理店1924年に出版された児童文学短編集です。その中の3番目に収録されている表題作の童話が『注文の多い料理店』なのです。その短編集は自費出版のような形で1000部刊行されましたが、ほとんど売れませんでした。本には「イーハトブ童話」という副題が付けられていました。定価が1円60銭と比較的高価だったということもありますが、(当時の映画入場料は30銭ほどなので、かなり高価です)やはり、売れ行きがよくなかったのは、宮沢賢治が当時まだあまり知られていなかったからでしょう。ちなみに、この『注文の多い料理店』の刊行本は現存しており、オークションサイトにも出品されていますが、いくらの値がついていると思いますか?

https://aucfree.com/items/k478941497

301,000円で落札されています。個人的には、もっと高値がついてもおかしくないと思いますけどね。
 

あらすじ

【本記事では、これから『注文の多い料理店』を読む人のために、あらすじを最後までは書いていません】

初め

東京から2人の紳士が山奥に狩猟にやって来ました。しかし獲物にはありつけず、案内してきた専門の猟師ともはぐれてしまいます。さらに、連れていた2匹の猟犬は泡を吹いて死んでしまいますが、2人はいくらの損害だと金銭の心配しかしません。2人はあきらめて宿に帰ることを決め、腹がすいて来たと話していると、「西洋料理店 山猫軒」という看板の掛かった西洋風の一軒家を発見しました。「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」との金文字を見て、2人はひどく喜んで店内に入ります。

料理店内へ

店内に入ると先ほどの戸の裏側には「ことに肥ったお方や若いお方は、大歓迎いたします」とやはり金文字で書かれており、どちらにも当てはまる2人は大喜びします。店内の廊下を進んでいくと扉があり、メッセージが置かれています。案内する人はだれもいませんが、2人は扉を開け、店の奥へと進んでいきます。

たしかに「注文」が多いが

扉ごとに客の身なりや荷物に関して、店からの「注文」が書かれています。なかなか室内に着かない2人は最後の「注文」を読んで、がたがたと震えだします。
 
この後、クライマックスを迎えますが、それほど長くない童話なので、ぜひお読みください。
青空文庫で無料で読めます。
 

 

見事な推理小説

この物語は単に教訓的というだけでなく、ミステリー推理小説のような手法がとられています。2人の裕福な紳士は、店から出される「注文」に楽観的な反応を示して、いわゆる推理を披露していくのですが、最後にごちそうにありつくという結論ありきで推測しているため、読者もそれに釣られていきます。しかし、実際には登場人物も読者も見事に「騙されてしまう」のです。それに気付いたときの恐怖で話が大きく展開しますが、その後の安堵、そして結論での意外性ときれいに収束していきます。宮沢賢治は自身の詩や童話を「心象スケッチ」と呼んでいて、思い浮かんだことを記していると説明していますが、この物語のように、推理小説のような構成力を求められるプロット
しっかり作り込んでいることがうかがえます。
 

注文の多い料理店』の伝えたいこと 

村の子どもらの反感 

童話集『注文の多い料理店』の広告文には、この作品の伝えたいことが端的に表現されています。

「二人の青年紳士が猟に出て路を迷ひ「注文の多い料理店」に入りその途方もない経営者から却つて注文されてゐたはなし。糧に乏しい村のこどもらが都会文明と放恣な階級とに対する止むに止まれない反感です。」 (以上、 「広告文」 )
【放恣な・ほうしな】気ままでしまりのないこと、勝手でだらしのないこと。
 
広告文から読み取れることは、「食べるのに困っている田舎の子どもたちが、都会で気ままに暮らしている人たちに持っている反感」と賢治は表現しているということです。もちろん、実際に反感を持っているのは、子どもたちと言うより、賢治自身でしょう。まして、東京からやって来て、田舎の山奥に住む動物たちを勝手気ままに狩猟するとなれば、快く思っていなかったに違いありません。財力・武力に物を言わせて、自然を蹂躙する者たちへの警告とも言えます。「止むに止まれない」という表現を、反感を買っても仕方がないと取るか、自然にわき上がってくる感情で、止められないと取るのか難しいですが、両方入り混じった感情なのでしょう。
わたしは、賢治の人生観・宗教観からすると、もう少し深いことを伝えたかったのではないかと推測しています。

財力武力での支配に対する批判

2人の紳士を宮沢賢治がどのように描写しているかに注目してみましょう。
二人の若い紳士が、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴかぴかする鉄砲をかついで、白熊のような犬を二疋つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことを云いながら、あるいておりました。
「ぜんたい、ここらの山は怪しからんね。鳥も獣も一疋も居やがらん。なんでも構わないから、早くタンタアーンと、やって見たいもんだなあ。」ー 『注文の多い料理店』の出だしの部分

 

宮沢賢治「二人の紳士がイギリスの兵隊の服装をして、ぴかぴかの鉄砲を担いでいる」と描写しています。なぜ「イギリス」なのでしょうか。この物語は1924年に出版されていますが、当時イギリスは「大英帝国」。第一次世界大戦で勝利し、世界最強国でした。ここから先は、私説ですが、宮沢賢治は財力と武力で世界を支配しているイギリスそして同盟関係にある日本の在り方を批判していたのでしょう。そのような支配は必ず神様の怒りを買うことになるという警告を発しているように思えてなりません。この点はさらに調査していきますが、宮沢賢治の宗教観や自然のなかで生きる弱い者への優しさとも深く関連しています。

注文の多い料理店』はおすすめの第二位にランク

この注文の多い料理店』は、宮沢賢治のおすすめ作品のなかで、第二位にランクされています。
第一位『銀河鉄道の夜
第三位『風の又三郎
第四位『虔十公園林』
第五位『永訣の朝』
となっています。
それぞれの簡単なあらすじをネタバレにならないようにまとめてあります。

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