ふきんとうだより

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宮沢賢治の「どんぐりと山猫」あらすじと伝えたいこと

宮沢賢治の「どんぐりと山猫」—知られざる名作の魅力

どんぐりと山猫 宮沢賢治


あなたは、宮沢賢治の「どんぐりと山猫」をご存知ですか? 1924年に刊行された童話集「注文の多い料理店」に収録されたこの作品は、賢治の代表作として知られる「銀河鉄道の夜」や「風の又三郎」ほど有名ではありませんが、その独特な世界観と深いメッセージで多くの読者を魅了します。この物語は、単に興味深いだけでなく、現代にも通じる教訓を秘めています。この記事では、物語の概要、込められたテーマ、そして賢治が伝えたかったことを詳しく解説します。

 

「どんぐりと山猫」の物語の概要

物語は、ある秋の土曜日に始まります。一郎という少年のもとに、差出人「山猫」からの奇妙な葉書が届きます。その内容は、たどたどしい文面でこう書かれています。

かねた一郎さま 九月十九日
あなたは、ごきげんよろしいほで、けっこです。
あした、めんどなさいばんしますから、おいでんなさい。
とびどぐもたないでくなさい。
山ねこ 拝

このユーモラスで不思議な葉書に、一郎は興味をそそられます。「飛び道具を持って来ないでください」という一文からは、山猫が人間を少し野蛮に見ているような、賢治らしい視点が垣間見えます。一郎は翌日、山へ出かけ、山猫を探します。道中、木々や動物たちと会話しながら進む様子は、賢治の自然への深い愛情を感じさせます。

やっと見つけた山猫は、一郎を「めんどなさいばん」に案内します。そこでは、どんぐりたちが「誰が一番えらいか」を巡って争っていました。背の高さや形の美しさで優劣を競うどんぐりたちに、一郎はこう提案します。

「このなかでいちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、いちばんえらいとね。」

 

この意外な解決策で、裁判は終わり、どんぐりたちは納得して帰っていきます。

物語の核心—「一番ばかで、めちゃくちゃなものがえらい」

一郎の提案は、この物語の中心となる考えです。この言葉には、賢治の優しい心根が表れています。社会では、強さや優劣で価値が測られがちですが、賢治は「弱者や個性的な存在にも光を当てるべき」と訴えます。このテーマは、賢治の別の作品「虔十公園林」にも共通しています。そこでは、知的障害を持つ少年・虔十が、村の人々から軽んじられながらも、純粋な心で自然を守る姿が描かれます。「どんぐりと山猫」でも、見た目や能力で劣るとされるどんぐりに価値を見出すことで、賢治は個々の輝きを尊重する姿勢を示しています。

物語の裁判シーンは、ユーモラスでありながら深い教訓を秘めています。どんぐりたちが互いに「自分こそが一番」と主張する姿は、競争社会の縮図とも言えます。一郎の解決策は、賢治が理想とした「比べない生き方」を象徴しています。

賢治が伝えたかったメッセージ

「どんぐりと山猫」が収録された「注文の多い料理店」の新刊案内には、賢治自身が書いたとされる一文があります。

山猫拝と書いたおかしな葉書が来たので、こどもが山の風の中へ出かけて行くはなし。必ず比較をされなければならないいまの学童たちの内奥からの反響です。

この言葉から、賢治が当時の教育制度に強い疑問を抱いていたことがわかります。1920年代の日本では、競争を煽る教育が一般的でした。賢治は教員としての経験から、子どもたちが成績や能力で常に比較される環境に苦しんでいるのを感じていたのでしょう。この物語は、そんな子どもたちの「内奥の反響」を代弁しています。

賢治はこう伝えています。人と比べても意味はない。たとえ愚かに見えても、誰にでも輝く部分がある。それぞれの個性を尊重し、優しく見守ることが、心穏やかな生き方につながるのです。このメッセージは、100年経った今も色褪せません。

文化的影響と現代での受容

「どんぐりと山猫」は、賢治の他の作品ほど広く知られていませんが、その魅力は時代を超えて受け継がれています。1988年にはOVAアニメとして、1995年には学研の道徳動画ライブラリーとして映像化されました。さらに、2017年にはいもとようこさんの温かみのあるイラストによる絵本金の星社から出版され、子どもたちにも親しみやすい形で再び注目されました。これらの作品は、賢治の物語が持つ普遍的なテーマ—個性の尊重や自然との共生—が現代にも響くことを示しています。

Audibleでも朗読を聴くことが出来ます。

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また、賢治の故郷・岩手県では、彼の作品をテーマにしたイベントや展示が定期的に開催されています。例えば、花巻市宮沢賢治記念館では、「どんぐりと山猫」を含む原稿や資料が展示され、賢治の創作の背景を知ることができます。これらの活動は、賢治のメッセージを次世代に伝える重要な役割を果たしています。

まとめ—現代に生きる賢治の教え

「どんぐりと山猫」は、ユーモラスな物語の裏に、深い人間愛と社会への問いかけを秘めた作品です。宮沢賢治は、どんぐりたちの小さな争いを通じて、競争や比較に縛られない生き方を提案します。一見「ばかで、めちゃくちゃ」な存在にも価値がある—この考えは、現代の私たちにも大きな気づきを与えてくれます。SNSや受験競争で他人と比べがちな今だからこそ、賢治の優しい視点が心に響きます。

ぜひ、もう一度この物語を読み返してみてください。子どもから大人まで、誰もが新しい発見に出会えるはずです。そして、賢治が愛した自然や人々の個性に、そっと目を向けてみませんか? 「どんぐりと山猫」は、そんな一歩を踏み出すきっかけになる物語です。

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