ふきんとうだより

フォーク、藤井聡太、宮沢賢治、佐々木朗希、石川優子についてつらつら語ります

MENU

宮沢賢治の童話 「猫の事務所」

「猫の事務所」の概要

この作品は、宮沢賢治の童話です。賢治には難解な童話や詩が多いのですが、この作品は、比較的読みやすく、わかりやすい内容です。1926年に雑誌『月曜』3月号に発表されました。賢治が生前に発表した数少ない作品の一つです。人間社会の差別やいじめの問題を風刺的に表現しています。
 

「猫の事務所」のあらすじ

猫の歴史と地理を調べる第六事務所で舞台です。そこで働くかま猫が、他の猫たちからいじめられる様子が描かれています。かま猫は、事務長である黒猫には優しくされていましたが、ある日を境に事務長もかま猫に冷たくなってしまいます。かま猫は悲しくなって・・・このあと物語は、どう展開するのでしょうか。
 

知っておくとよいこと

「猫の事務所」の副題は「・・・ある小さな官衙(かんご)に関する幻想・・・」です。「官衙」とは役所・官庁のこと。賢治は旧稗貫郡役所をモデルにしています。
初めの方に竈猫という表記が二回出てきます。竈のすすが顔についているために「かま猫」と呼ばれています。
 

宮沢賢治が「猫の事務所」で伝えたいこと

賢治は、猫の事務所で働くかま猫に対して抱く同情を描くことによって、見た目や立場が違う者に対する偏見や嫌がらせを批判しています。また、事務長という権力者が、かま猫に優しくしていたのにもかかわらず、他の猫たちのうそや追従に流されてかま猫を見捨てます。このことを通して権力の腐敗や弱者に対する不適切な対応を暴露しています。最後の場面で事務所の運命が決する訳ですが、賢治はその締めくくりでも自分の意見を述べています。
 

ふきんとうの感想

いつの世でも、どんな場所でも大なり小なり生じていることが描かれていると言っていいでしょう。賢治は虐げられているかま猫の見た目を、嫌われている要因として挙げています。その部分を実際に読んでみましょう。
『竈猫というのは、これは生れ付きではありません。生れ付きは何猫でもいいのですが、夜かまどの中にはひってねむる癖があるために、いつでもからだが煤(すす)できたなく、殊に鼻と耳にはまっくろにすみがついて、何だか狸のような猫のことを云うのです。
ですから、かま猫はほかの猫に嫌はれます。』
 

嫌う人いじめる人の心の有りように問題がある

実際これは人間の大人と子供がいろいろな所でしていること、されていることです。見た目が気に入らないから、変わっているからといじめられている人はたくさんいます。賢治は、後半でかま猫が、すすが付かないように外でねる努力をするものの、寒さに耐えられず、かまどに入る様子を描いています。つまり、かま猫は嫌われたくないので、何とか好かれようと努力するのですが、かないません。そして、かま猫は皮が薄いから我慢できない。自分が悪いんだと考えます。いじめられている多くの人、特に子供は、見た目の悪い自分が悪いんだ、嫌われるような子なんだと、いつも心に言い聞かせているに違いありません。でも、賢治が言いたいことは、【いや、そうじゃないんだ。嫌っている人の心の有りように問題があるのだ】と言うことです。賢治は、作中ではっきりそう書いてはいませんが、物語の展開や描写から、そう感じられるのです。この作品でも、賢治は弱者に対する優しい目を向けています。
 
これから、この作品を読む方のために、結論の部分には全くふれていません。ぜひ「青空文庫」で読んでみて下さい。

青空文庫 Aozora Bunko

 
絵本もあります。