土用の丑の日、なぜ「うなぎ」?知っているようで知らない夏の風物詩の裏側
夏の訪れとともに聞こえてくる「土用の丑の日」。
スーパーの店頭にはうなぎがずらりと並び、香ばしい匂いが食欲をそそります。
「夏バテ防止にうなぎを食べよう!」
これはもはや、日本の夏の合言葉のようになっていますよね。

でも、ふと疑問に思いませんか?
- そもそも「土用の丑の日」って何の日?
- どうして数ある食べ物の中から「うなぎ」が主役になったの?
- 本当に夏に食べるのがベストなの?
この記事では、そんな素朴な疑問に丁寧にお答えします。
実はこの習慣、江戸時代の天才学者による一大マーケティング戦略がきっかけでした。
由来から最新事情までを紐解き、伝統をより深く、そして自分らしく楽しむためのヒントをお届けします。
土用の丑の日とは?2025年・2026年はいつ?
まずは基本の「き」からおさらいしましょう。
「土用の丑の日」という言葉は、「土用」と「丑の日」という2つの要素で成り立っています。
「土用」と「丑の日」の本来の意味
「土用」とは、季節の変わり目を示す雑節(ざっせつ)のこと。
具体的には、立春・立夏・立秋・立冬の直前の約18日間を指します。
つまり、土用は年に4回、春夏秋冬それぞれの季節の終わりにやってくる期間なのです。
一方、「丑の日」は、日付を十二支(子・丑・寅…)で数えたものです。
12日ごとに「丑の日」は巡ってきます。
この2つを組み合わせた、「土用の期間中にある丑の日」が「土用の丑の日」というわけです。
約18日間の土用の期間に、12日周期の丑の日が巡ってくるので、年によっては2回「土用の丑の日」が訪れることもあります。
一般的に「土用の丑の日」といえば夏のことを指しますが、これは暑さが厳しく体調を崩しやすい夏の土用に、精のつくものを食べて乗り切ろうという古くからの知恵が根付いているからです。
2025年と2026年の「夏の土用の丑の日」
気になる今年の土用の丑の日ですが、2025年は2回あります。
2025年(令和7年)
- 一の丑:7月19日(土)
- 二の丑:7月31日(木)
ちなみに、来年2026年は1回です。
2026年(令和8年)
- 7月26日(日)
この日になると、うなぎ屋さんはもちろん、スーパーやコンビニまで、うなぎ商戦で大いに賑わいますね。
でも、少し早めに楽しむ「フライング丑の日」をされる方も多いようです。
ほぼ土用の丑の日 pic.twitter.com/5p6lem1Pra
— 燕/吉崎ひろし (@hiro_yosizaki) July 14, 2025
なぜ土用の丑の日に「うなぎ」を食べるようになったの?
さて、本題です。
なぜ「土用の丑の日」にうなぎを食べる習慣が定着したのでしょうか。
その最も有力な説は、江戸時代の万能学者・発明家として知られる平賀源内が仕掛け人だったというものです。
江戸時代の名プロデューサー、平賀源内の一手
うなぎの旬は、実は脂がのる秋から冬にかけて。
そのため、夏のうなぎは味が落ちるとされ、江戸時代、うなぎ屋は夏場の売上不振に頭を悩ませていました。
ある日、知人のうなぎ屋から「夏にうなぎを売る良い方法はないか」と相談を受けた平賀源内。そこで彼が提案したのが、
『本日、土用の丑の日』
と書いた貼り紙を店先に張り出すことでした。
これが、歴史に残る名キャッチコピーとなります。
もともとは「う」の付くものを食べる日だった
なぜこの貼り紙が効果的だったのか。
実は当時、「丑の日」に「う」の付く食べ物を食べると夏負けしない(病気にならない)という言い伝え、一種の願掛けのような風習がありました。
人々は主に、下記のようなものを食べていたそうです。
- うり(胡瓜、西瓜、冬瓜など)
- うどん
- うめぼし(梅干し)
- うし(牛肉)※当時は薬食いとして
源内は、この風習に目をつけ、「うなぎ」の「う」を引っ掛けて宣伝したのです。
「土用の丑の日には『う』のつくものを食べると良いらしい。お、ここに『うなぎ』があるじゃないか!」
というわけです。
このアイデアが見事に大ヒット。
うなぎ屋はたちまち大繁盛し、他の店もこぞって真似をするようになり、やがて「夏の土用の丑の日にはうなぎ」という習慣が、江戸の町から全国へと広がっていったのでした。
平賀源内説だけじゃない?その他の由来
平賀源内説が最も有名ですが、他にも説はあります。
例えば、奈良時代に編纂された『万葉集』には、すでにうなぎが夏バテに効くという内容の歌が詠まれています。
石麻呂に吾れもの申す夏痩せに良しといふものぞ鰻捕り食せ
詠み人:大伴家持
(痩せている石麻呂さんに私が言っておく。夏痩せにはうなぎを捕って食べるのが良いそうだよ)
この歌からも、うなぎが滋養強壮に良いという認識が、古くから存在したことがうかがえます。
平賀源内のアイデアは、こうした古来のイメージを、見事に時流に乗せたものだったのかもしれませんね。
夏バテ防止は本当?うなぎの栄養価を徹底解説
「夏バテ防止に」というキャッチコピーの科学的な根拠はどうなのでしょうか。
結論から言うと、うなぎが夏バテ予防に効果的な栄養素を豊富に含むのは事実です。
PR- 通販で購入する人も多いようです。
うなぎに含まれる豊富な栄養素
うなぎの蒲焼(100gあたり)には、以下のような栄養素がぎっしり詰まっています。
- ビタミンA:皮膚や粘膜を健康に保ち、免疫力を高めます。夏風邪の予防にも。
- ビタミンB群(B1, B2):ご飯などの糖質をエネルギーに変える手助けをします。疲労回復に不可欠で、「疲労回復のビタミン」とも呼ばれます。
- ビタミンD:カルシウムの吸収を助け、骨を丈夫にします。
- ビタミンE:強い抗酸化作用があり、細胞の老化を防ぎます。
- DHA・EPA:血液をサラサラにする効果や、記憶力・集中力の維持に役立つとされる不飽和脂肪酸です。
- ミネラル(亜鉛、カルシウム、鉄分):体の調子を整えるのに欠かせない成分です。
これだけの栄養素がバランス良く含まれているため、食欲が落ちて栄養が偏りがちな夏に食べるのは、非常に理にかなっていると言えます。
うなぎの旬は本当に夏?
先述の通り、天然うなぎが最も美味しい旬の時期は、冬眠に備えて体に脂肪を蓄える10月~12月頃です。
夏の天然うなぎは、産卵期を終えて脂が落ちているため、比較的さっぱりとしています。
では、なぜ旬ではない夏に食べるのか?
その答えが、平賀源内のマーケティング戦略だったわけです。
しかし、現代においては少し事情が異なります。
私たちが普段口にするうなぎのほとんどは養殖です。養殖うなぎは、水温やエサが管理された環境で育つため、年間を通して品質が安定しており、脂ののった美味しいうなぎをいつでも楽しむことができます。
「土用の丑の日」の新しい過ごし方
由来や栄養について見てきましたが、ここで少し立ち止まって考えてみたいことがあります。
「みんなが同じ日にうなぎを食べるのは、本当に良いことなのだろうか?」と。
本当にみんな同じ日に食べる必要ある?
特定の日に消費が集中すると、様々な問題が起こります。
価格の高騰、うなぎ屋さんの極度の混雑、そして大量生産・大量廃棄による食品ロスなどです。
あまりの忙しさに、かえって普段通りの丁寧な仕事ができないという理由から、土用の丑の日にはあえて店を休むという老舗のうなぎ屋さんもあるほどです。
蕎麦屋の厨房も暑いですが鰻屋の焼き場も暑いと思います。飯倉の老舗の鰻屋の大旦那さんに土用の丑の日は暑くて大変でしょうと聞いたら、たくさんのお客様が来て普段の仕事ができないから休みにしていると言いました。蕎麦屋が大晦日に休むぐらいの衝撃をもらい背筋が涼しくなりました。#神田錦町更科 pic.twitter.com/0Jrncd6OOH
— 神田錦町更科 (@kandasarashina) July 31, 2023
このツイートにある飯倉の老舗「五代目 野田岩 麻布飯倉本店」は、今年もホームページで土用の丑の日の休業を告知しています。
伝統行事の日だからこそ、最高の状態でうなぎを提供したいという職人の心意気が感じられますね。
うなぎの資源問題と私たちの選択
さらに深刻なのが、うなぎの資源問題です。
ニホンウナギは、2014年にIUCN(国際自然保護連合)から絶滅危惧種に指定されています。
現在、うなぎの完全養殖(卵から成魚まで育てること)の研究は進んでいますが、まだコストが高く商業ベースには乗っていません。そのため、養殖うなぎも天然の稚魚(シラスウナギ)を捕獲して育てており、これが資源減少の一因とされています。
大切な食文化であるうなぎを未来に残すためにも、私たち消費者にできることがあります。
- 日をずらして食べる:混雑を避け、フードロス削減に貢献する。
- 代替品を楽しむ:最近では、味や食感をうなぎに似せた「なまずの蒲焼」や、植物由来の「うなぎ様(さま)」なども登場しています。
- 持続可能性を考える:資源管理に取り組んでいることを示す認証ラベルが付いたうなぎを選ぶ。
原点回帰!「う」の付く食べ物で夏を乗り切る
平賀源内のアイデアの原点に立ち返り、うなぎ以外の「う」の付く食べ物で夏を乗り切るのも素敵な選択です。
- うどん:消化が良く、食欲がない時でもつるっと食べられます。
- 瓜(きゅうり、ゴーヤなど):体の熱を冷まし、水分補給に役立ちます。
- 梅干し:クエン酸が疲労回復を助け、食中毒予防にもなります。
- 牛肉(うし):良質なたんぱく質や鉄分が豊富で、夏バテ予防にぴったりです。
その日の気分や体調に合わせて、自由に選んでみるのも楽しいですね。
まとめ:土用の丑の日を自分らしく楽しもう
「土用の丑の日にうなぎを食べる」という習慣。
その始まりは、夏に売れないうなぎを売るための、江戸時代の天才学者・平賀源内による巧みなキャッチコピーでした。
もともとは「う」の付くものを食べて夏を乗り切ろうという風習に便乗したものでしたが、栄養豊富なうなぎは実際に夏バテ防止に効果的で、この習慣は現代にまで続く夏の風物詩として定着しました。
一方で、現代の私たちは、消費の集中による問題や、うなぎの資源枯渇という深刻な課題にも向き合う必要があります。
伝統の由来を知り、その背景を理解した上で、私たち一人ひとりが自分に合った選択をすることが、これからの時代の「土用の丑の日」の楽しみ方なのかもしれません。
今年は丑の日にうなぎを味わいますか?
それとも、少し日をずらしてゆっくり楽しみますか?
はたまた、「う」の付く別の美味しいもので夏を乗り切りますか?
ぜひ、あなたらしいスタイルで、日本の夏を楽しんでみてくださいね。