2021年、石川優子が語った「もう一人の私」
2021年12月30日に放送されたNHK-FMの番組は、多くの石川優子ファンにとって、忘れられない時間となりました。
80年代をトップシンガーとして駆け抜け、90年代には一度マイクを置き、自分の内面と向き合う生活を選んだ彼女。
そのあたりの自分の気持ちを率直に語ってくれた石川優子さん。このシリーズ記事でまとめていますが、前回までは、
⑴ 80年代は駆け抜ける青春だった
⑵ ちょっとちがうぞと感じ始めて作った「恋愛孤独人」
⑶ 自分の内に向かって生活を楽しんだ90年代
という内容でした。
今回は(4)「留学の思い出とプロレス」です。
ニューヨーク留学で得た、かけがえのない宝物
1990年に歌手活動を休止した石川優子さん。翌年、彼女は新たな挑戦の地としてニューヨークを選びました。
コロンビア大学の英語学校で過ごした日々は、音楽の世界とはまた違う、刺激と喜びに満ちていたようです。
世界中の仲間との交流と、忘れられない一曲
番組で彼女は、当時の思い出を生き生きと語ってくれました。
本当に世界中からいろんな人たちが集まって来ていました。クラスメイトもさまざまな国のさまざまな年齢の人たちが集まっていました。それで、お互いにいろんな情報を、私たちの国ではこうだ、私たちの国ではこうだっていうような情報を交換するのがね、すごく楽しかったです。
いろんな仲間とありとあらゆることやりました。マンハッタンの中でも行けるところは全部入ったぐらいの感じで、やれることは何でもしました。もう、スケボーだってやりましたよ、みたいな感じで。
年齢も国籍も違う人々が、同じ教室で学び、語り合う。そこには、スター「石川優子」ではなく、一人の人間としての彼女がいました。
多様な文化に触れ、視野を広げていく時間は、彼女にとって何物にも代えがたい経験だったことでしょう。
涙のカラオケで歌ったキャロル・キングの名曲
そんな留学生活には、忘れられない友情の物語がありました。
そのコロンビア大学の英語学校でとても仲良くなったフィンランド人の女の子がいるんですけれども、最後の卒業の時に、みんなでカラオケに行って彼女のために歌った曲があるんですね。
この曲を歌うと彼女が泣いてくれました。私も一緒に泣きました。そんな思い出深い曲です。キャロル・キング で “You’ve got a friend”
「君が困ったとき、いつでも友達がいるよ」と歌うこの名曲は、国境を越えた友情の証となりました。
言葉や文化の壁を乗り越え、心で通じ合った仲間との別れ。彼女の歌声に、フィンランド人の友人が涙し、自身も共に涙したというエピソードは、聴いているこちらの胸まで熱くさせます。
この経験は、彼女の人生観に大きな影響を与えたに違いありません。
意外な一面? 石川優子を虜にしたプロレスの奥深さ
ニューヨークでの充実した生活を経て、彼女の興味は意外な方向へと向かいます。
それは、「プロレス観戦」でした。クリスタルボイスでラブソングを歌い上げてきた彼女と、汗と闘魂が渦巻くリング。一見、結びつかないように思えるこの組み合わせですが、彼女を惹きつけたのは、その計り知れない奥深さでした。
きっかけはジャイアント馬場の「哲学的な言葉」
すべての始まりは、一人の偉大なレスラーとの出会いでした。
最初は何がきっかけだったのかなーって思うんですけれども、ジャイアント馬場さんが好きだったんですね。ジャイアント馬場さんの何かこう本屋さんでパラパラって本をめくった時に、ジャイアント馬場さんの言葉がものすごく哲学的で、すごい刺さった言葉があったりなんかして、それでジャイアント馬場さんがすごく好きになって…(中略)
「世界の巨人」と称されたジャイアント馬場さん。そのリングでの強さだけでなく、朴訥とした語り口の中に光る、人生の真理を突くような言葉に、石川さんは心を射抜かれたのです。
彼の人間的な魅力が、プロレスという未知の世界への扉を開きました。
村松友視が語る「底が見える底なし沼」
プロレスへの興味をさらに深めたのが、作家・村松友視さんの存在です。
彼の著書『私、プロレスの味方です』は、多くの文化人に影響を与えました。
あの当時、村松友視さんっていう方が、プロレスに関する本を書いていらして、(中略)その村松さんの本を読んでみると、プロレスってものすごく奥が深いんですよね。で村松さんはそのプロレスのことを「底が見える底なし沼」っていう風におっしゃってるんですね。知れば知るほど奥が深いんですよ。
「底が見える底なし沼」とは、実に的確な表現です。
一見すると勝敗が分かりやすいようで、その背景にはレスラーたちの生き様、人間関係、ライバル物語といった深いドラマが広がっている。知れば知るほどハマってしまう、底なしの魅力。この言葉に導かれ、彼女はついに生観戦の世界へと足を踏み入れます。
生観戦で体感したプロレスの熱狂とドラマ
テレビで見るのとは全く違う、会場の熱気、技の衝撃音、観客のどよめき。
石川さんは、そのすべてに圧倒され、魅了されていきました。
空飛ぶ仮面貴族から恐怖の帝王まで
彼女が好きだったレスラーたちの名前からは、当時のプロレス黄金時代の熱気が伝わってきます。
空を翔ぶが如くのミル・マスカラス。それからスタン・ハンセンとかにも夢中になったんですけれども、とにかくだーってもう戦車のようにばーって来て、前につんのめっていく。それから会場を一つにしてしまうタイガー・ジェット・シン。あの恐怖。本当に怖いんですよ。みんな会場を逃げ惑うんですよ。
- ミル・マスカラス:「仮面貴族」と呼ばれ、華麗な空中殺法でファンを魅了したメキシコの英雄。
- スタン・ハンセン:「不沈艦」の異名を持つテキサスの荒馬。「ウィー!」の雄叫びとウエスタン・ラリアットはあまりにも有名です。
- タイガー・ジェット・シン:サーベルを振り回し、観客席にまでなだれ込むファイトスタイルで会場を恐怖の渦に巻き込んだ悪の帝王。
華麗なヒーロー、パワフルな暴れん坊、そして憎らしいほどの悪役。
それぞれのレスラーが持つ強烈な個性と、彼らがリング上で織りなす物語に、彼女はすっかり夢中になったのです。
派手さだけじゃない「渋い技」の魅力
さらに彼女の視点は、プロレスのより深い部分にも向けられていました。
その中でも、まためちゃくちゃ渋い技をかける人がいるんですね。跳んだりとか、見た目に派手な技ももちろんかっこいい技いっぱいあるんですけど、知らないところで関節を締め上げてるみたいな。そこ締めてたのみたいな感じの技が繰り広げられて、気がつかない間にこんなところで攻めてたんだみたいな。
派手な投げ技や空中殺法だけでなく、一瞬の隙を突く関節技や、じわじわと相手の体力を奪う寝技の攻防。その玄人好みの「渋さ」にまで気づき、楽しんでいたというのですから、相当なプロレス通と言えるでしょう。
まとめ:今も色褪せない石川優子の魅力と「心のプロレス」
今回のラジオ出演では、ニューヨーク留学というグローバルな経験と、プロレスという情熱的な世界にハマった、石川優子さんの知られざる一面が明らかになりました。
一見すると全く異なる二つの体験ですが、そこには共通点があります。
それは、「自分の好奇心に素直に従い、とことんその世界を楽しむ」という姿勢です。
スターとしての自分から一度離れ、世界中の人々と心を通わせた留学生活。
そして、レスラーたちの生き様に自らの情熱を重ねたプロレス観戦。
彼女は最後に、プロレスへの思いをこう締めくくっています。
プロレスラーの方々の一途な、その自分たちの世界に対する一途な思いとかすべての事を含めて、プロレスって奥が深いなーって思ったんですよね。はい、ずっと応援していきたいなと、心のプロレスとして応援していきたいなと思っております。
「心のプロレス」—。この言葉は、今も彼女の中でプロレスへの熱い思いが生き続けていることを示しています。
2021年のラジオ出演は、彼女が今もなお、瑞々しい感性と探求心を持ち続ける、魅力的な女性であることを私たちに改めて教えてくれました。
これからも、石川優子さんの「心のプロレス」がどんな熱戦を繰り広げていくのか、そっと見守り続けたくなりますね。