藤井聡太六冠の活躍で、将棋が再び注目を集めていますが、華やかなタイトル戦の裏側で、プロ棋士になるまでの道のりは想像以上に険しいものです。その鍵を握るのが、日本将棋連盟が運営するプロ養成機関「奨励会」です。将棋に詳しくない方でもわかりやすいように、奨励会の仕組みやルール、実際の事例を交えながら解説します。夢を追う若者たちの努力と葛藤に触れると、将棋の見方がきっと変わるはずです。
① 将棋のプロ棋士になるには
将棋のプロ棋士になる正規ルートは、奨励会に入会し、四段に昇段することです。奨励会は日本将棋連盟がプロ棋士を養成するための制度で、小学生から高校生くらいの年齢で入会する人がほとんどです。
まず、入会試験に合格する必要があります。試験は年2回行われ、全国から有望な子どもたちが挑戦します。合格すると「6級」からスタートし、対局成績に応じて級や段を上げていきます。最終関門が「三段リーグ」で、ここで上位2位(または同率の場合複数)に入ると四段となり、晴れてプロ棋士になれます。プロになると、すぐに公式戦に出場し、賞金や対局料で生計を立てることになります。
2026年2月現在、第78回三段リーグ(2025年10月~2026年3月)が進行中です。直前の第77回(2025年4月~9月)では、史上初の4人同時プロ誕生が話題になりました。夢への切符を手にする人は、ごくわずかです。
② 奨励会の主なルール
奨励会は非常に厳格なルールで運営されています。主なポイントは以下の通りです。
- 入会資格:原則として小学校高学年くらいまでが目安ですが、公式には満19歳の誕生日まで入会試験を受けられます。ただし、年齢制限があるため実際には10歳前後で入会する人が大半です。
- 昇級・昇段:対局成績で決まります。初段~三段までの昇段点は、8連勝、12勝4敗、14勝5敗、16勝6敗、18勝7敗。
6級~1級までの昇級点は、6連勝、9勝3敗、11勝4敗、13勝5敗、15勝6敗。
悪い成績が続くと降級・降段もあります。 - 三段リーグ:三段になると、半年ごとに全国の三段が集まってリーグ戦を行います。上位2位(同率の場合3位や4位も)が四段昇段です。
- 年齢制限:満21歳の誕生日までに初段、満26歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段になれなかった場合は退会となる。最後にあたる三段リーグで勝ち越しすれば、次回のリーグに参加することができる。以下、同じ条件で在籍を延長できるが、満29歳のリーグ終了時で退会。
- 退会後の道:プロになれなかった場合でも、アマチュア強豪として活躍したり、将棋に関わる仕事に就く人もいます。
これらのルールは、若いうちに高いレベルに到達しないとプロになれないという、極めて厳しい仕組みです。入会者数百人に対して、プロになれるのは年間数人程度です。
③ 厳しい現実の例:鈴木英春さんの場合
奨励会の厳しさを象徴する人物の一人が、鈴木英春さんです。鈴木さんは中学卒業後すぐに奨励会に入会し、三段まで昇段しました。当時は天才と呼ばれ、アマチュアタイトルも複数獲得する実力者でした。しかし、年齢制限により31歳で退会を余儀なくされました。(当時の年齢制限は今よりも高かった)
退会後は「英春流かまいたち戦法」という独自の戦法を編み出し、アマチュア界で伝説的な存在になりました。書籍を出版したり、対局イベントに出演したりと、将棋普及に大きく貢献しています。プロになれなかった悔しさは大きいはずですが、別の形で将棋界を支え続けている姿は、多くの人に勇気を与えています。彼のもとに弟子入りする人も多く、トーナメントプロではないとしても、レッスンプロとして立派な活躍をされていると言えます。
奨励会の様子を知るのに恰好の一冊がこれ
④ 希望の光:元奨励会員アユムさんの活躍
一方で、奨励会を退会した後も将棋で輝く人がいます。その代表が、YouTubeで人気の「元奨励会員アユム」さんです。アユムさんは奨励会で高いレベルまで到達しましたが、プロの座は掴めませんでした。
しかし、退会後に始めた将棋実況・解説動画が大ヒット。丁寧でわかりやすい解説と、明るい人柄で多くのファンを獲得しています。2025年末の動画でも活発に活動中で、プロ棋士の対局を実況したり、視聴者と交流したりと、将棋の魅力を広く伝えています。将棋界の新しい可能性を示す存在として、若い世代からも支持されています。
アユムさんは、ネットを活用した将棋の情報発信という最新の手法を駆使しているレッスンプロと言えるでしょう。
⑤ 今後の見通し
奨励会は今後も将棋界の基盤として続いていくでしょう。AIの進化で研究方法が変わった現代でも、若いうちに実戦を積む重要性は変わりません。
また、女性研修生の増加や、編入試験制度の活用など、多様な道も少しずつ開かれています。2026年現在も若い才能が次々と現れており、将棋界はますます盛り上がりそうです。厳しい環境だからこそ生まれる、深い魅力が奨励会にはあります
奨励会は夢と挫折が交錯する場所ですが、そこをくぐり抜けた棋士たちの対局は特別な輝きを放ちます。将棋に興味を持った方は、ぜひプロ棋士のバックストーリーにも注目してみてください。きっと一局一局が、より深く心に響くはずです。