ネパールの若者たちが起こした大規模な抗議運動は、瞬く間に政権転覆という歴史的な転機を生み出しました。ソーシャルメディアの規制に端を発したこの動きは、既存の政治構造を揺るがし、デジタルツールを駆使した民主主義の実験として世界の注目を集めています。これまでの記事では運動の勃発とその背景をお伝えしましたが、今回はその中心に据えられたNPO「ハミ・ネパール」の役割に焦点を当てます。資金の謎や暫定首相の選出プロセス、そして9月14日以降の最新動向を詳しく掘り下げていきます。このシリーズを通じて、ネパールの若者たちが切り拓く新しい政治の形を一緒に追いかけてみましょう。
ここまでの記事はこちら➤
①政府転覆と暫定首相選出における「ハミ・ネパール」の役割
2025年9月8日に始まったGen Z運動は、ソーシャルメディア規制反対のデモから一気にエスカレートし、議会や首相官邸への放火、警察との衝突を引き起こしました。この混乱の中で「ハミ・ネパール」(ハミとはネパール語で『私たち』のこと)が果たした役割は、まさに運動の「中核」でした。創設者のスダン・グルン氏が率いるこのNPOは、初日のデモで40人以上のボランティアを動員し、水の配布や負傷者の救出、さらにはヘリプラインの設置までを担いました。これにより、参加者の士気を高め、運動を組織的に支えたのです。
特に注目すべきは、資金面での貢献です。ハミ・ネパールはデモのロジスティクスを支えるために、寄付金として約5億ルピー(約5億円相当)を集めました。これには米国系NGOからの支援が含まれ、ボランティアの移動費や通信機器の調達に充てられたとみられます。一方で、武力行使の側面では、組織的な武器供給の証拠はなく、参加者の自発的な暴力的行動が主でした。ただし、軍需関連のドナーとのつながりが、軍の介入をスムーズにし、政権転覆後の暫定政権移行を後押しした可能性が高いです。
政府転覆後、ハミ・ネパールは暫定首相選出の主導者となりました。Discordサーバーでの投票を企画・運営し、軍や大統領の承認を得る橋渡し役を果たしました。このプロセスを通じて、若者たちの声を直接政治に反映させる仕組みを構築したのです。結果として、旧政権の崩壊と新体制の樹立に不可欠な存在となりましたが、一方で資金の不透明さが陰謀論を呼ぶ要因にもなっています。
②「ハミ・ネパール」とは 分かっていることと分からないこと
ハミ・ネパールは、2015年のネパール大地震後の支援活動から生まれたNPOです。正式登録は2020年で、登録番号は6097890650。主な活動は人道支援や社会運動で、ウェブサイトでは寄付者と支援対象者を繋ぐプラットフォームを掲げています。創設者のスダン・グルン氏は、元DJから社会活動家に転身し、地震後の病院整理や被災地支援で1,600人規模のボランティアを組織した実績があります。現在はコーディネーターとして、Gen Z運動の顔役を務めています。
分かっていること
組織の規模はDiscordサーバーのメンバー15万人超に及び、InstagramやYouTubeを活用した情報発信が強みです。資金源は公式にCoca-Colaなどの寄付を公表しており、COVID-19支援時にも活躍しました。また、ネパール軍への感謝声明を出したり、死者36人のキャンドルマーチを主催したりと、国民感情を掴むPRが上手いです。
分からないこと
一方、分からないことは資金の詳細な流れです。米国政府のCEPPS(9億ドル超の民主主義支援)やStudents for a Free Tibet(NED資金受領)からの間接支援が疑われていますが、Barbara Foundationなどは「COVID時のみの協力」と否定。総額549百万ルピーの支出明細が不明瞭で、外部影響(「カラー革命」)の憶測を招いています。また、グルン氏の「不安定な性格」—例えば記者会見での若者間乱闘や、推薦した首相への即時辞任要求—が内部混乱を示唆します。Shankar Groupなどの支援団体も関係を否定しており、組織の持続可能性に疑問符がつきます。
| 項目 | 分かっていること | 分からないこと |
|---|---|---|
| 設立・活動 | 2015年地震支援から。2020年登録。人道・社会運動。 | 長期的な運営計画。 |
| 資金源 | Coca-Colaなど寄付約5億ルピー。米国NGO間接支援。 | 詳細支出と外部影響の真偽。 |
| リーダーシップ | スダン・グルン氏主導。15万人規模のオンラインコミュニティ。 | 内部対立と持続可能性。 |
このように、ハミ・ネパールは革新的なNPOですが、不透明さが今後の信頼を左右するでしょう。
③暫定首相選出はどのように決まったのか
9月12日、元最高裁判事で女性のスシラ・カルキ氏(73歳)が暫定首相に選出されました。このプロセスは、ハミ・ネパールが主催したDiscordサーバー「Youth Against Corruption」チャネルで行われました。運動直後の9月12日、15万人超のメンバーで議論が始まり、10,000人以上が参加。YouTube同時配信で6,000人が視聴しました。
選出の流れは以下の通りです。
- 候補者公募: 5人の候補(カルキ氏含む)を若者から募り、反腐敗実績を基準に絞り込み。つまり、カルキ氏は立候補したわけではない。
- 議論フェーズ: リアルタイムチャットで各候補の政策を質疑。fact-checkルームで誤情報を防ぎました。
- 投票実施: 匿名投票でカルキ氏が50%超の票を獲得。軍が即時承認。
- 承認プロセス: 大統領と軍の了承を得て正式任命。3月までの6ヶ月暫定政権として機能。
このデジタル民主主義は「より平等的」と評価されましたが、国民の受け入れは二極化。高齢層からは「非公式で操作可能」との批判があり、偽アカウントのリスクも指摘されます。一方、Gen Zからは「未来のプロテストモデル」として支持を集め、X上で「democracy 2.0」と話題になりました。軍の介入が安定を支えましたが、伝統選挙とのギャップが課題です。
④直近の動きをまとめる(9/14以降)
抗議収束後の9月14日以降、暫定政権は安定化を図っていますが、Gen Zの要求が続き、緊張が残ります。以下に主な動きを時系列でまとめます。
- 9月14-15日: Discord選出の詳細がメディアで報じられ、若者活動家が新リーダー選出を推進。Al Jazeeraが「egalitarian」と称賛。
- 9月20日: NPRが初の女性首相就任を特集。気候変動やインフレが若者の不満を煽った背景を分析。
- 9月23日: Reuters報道で、カルキ首相が選挙6ヶ月以内の圧力に直面。Gen Zが74人死亡者の正義、逮捕、改革を要求。カルキ氏が公約を表明し、脆弱な平和を維持。
- 9月24日(最新): カルキ首相が内閣を拡大し、8人に(新任: Anil Kumar Sinha、Mahabir Pun、Jagdish Kharel、Madan Pariyar)。2026年選挙まで11人でキャップを設定。Ram Chandra Paudel大統領と会談し、選挙の円滑実施を協議。カルキ氏公式アカウントで「腐敗者容赦なし」と強硬声明を発信。一方、スダン・グルン氏への批判が高まり、Karki辞任要求の声も。
観光面では9月8-13日の混乱で道路封鎖や空港閉鎖が発生しましたが、現在は回復傾向です。X上ではインドの抗議(Ladakhなど)と比較する投稿が増え、ネパールモデルが国際的に波及する兆しが見えます。ハミ・ネパールの役割は引き続き注目されますが、資金透明化が急務です。
ネパールのGen Z運動は、単なる暴動ではなく、デジタル時代のパワーを示す象徴です。若者たちが築く新しい民主主義の行方を、これからも追い続けましょう。次回は選挙に向けた展望をお届けします。ご意見お待ちしています!