言葉は時代とともに変わっていきます。今日、私たちが当たり前に使っている言葉が、10年後には古くさく感じられるかもしれません。そんな言葉の変遷を、芥川龍之介の短いエッセイ「谷崎潤一郎氏」を通じて探ってみましょう。この作品では、今ではほとんど聞かれなくなった「襟飾り」という言葉が登場します。実はこれ、ネクタイを指す表現なのです。興味深いですね。では、詳しく見ていきましょう。
芥川龍之介のエッセイ「谷崎潤一郎氏」とは
芥川龍之介は、大正時代を代表する作家です。彼の作品は、鋭い心理描写やユーモアに満ちていて、今も多くの人に読まれています。「谷崎潤一郎氏」は、1920年頃に書かれた短いエッセイで、谷崎潤一郎という有名作家のエピソードを描いています。
このエッセイでは、芥川が谷崎と一緒にカフェに入る場面が描かれます。谷崎は黒い背広に赤い「襟飾り」を付けていて、それがとてもおしゃれで目立つのです。通行人が振り返るほどです。そして、カフェの女給(ウエイトレス)が「まあ、好い色のネクタイをしていらっしやるわねえ」と言うのです。ここで、「襟飾り」と「ネクタイ」が同じものを指していることがわかります。芥川は文学的な表現として「襟飾り」を使い、女給は日常語の「ネクタイ」を使っているのです。この対比が、作品のユーモアを生んでいます。
谷崎潤一郎は実際におしゃれ好きで知られていました。このエピソードは、彼のファッションセンスを反映したものと言えます。大正時代、ネクタイは西洋から入ってきた新しいアイテムでした。だからこそ、「襟飾り」という日本語の表現が使われていたのです。
「襟飾り」がネクタイを指す理由
なぜ「襟飾り」と呼ばれたのでしょうか。ネクタイの起源は、首周りの飾り物(neckwear)です。ヨーロッパの貴族が首に巻く布が元で、装飾的な意味が強かったのです。日本では明治時代に西洋文化が入り、ネクタイが普及しました。当時は「ネクタイ」という外来語と並んで、「襟飾り」という訳語が使われていました。
この言葉は、文学作品や当時の資料でよく見られます。今では死語になってしまいましたが、過去には日常的に使われていたのです。実際、この作品を読んだ時、女給の言葉を読むまでは、「襟飾り」とは「スカーフ」か「ボウタイ」のことかなと思っていました。芥川のエッセイは、そんな「襟飾り」がネクタイであることを示す明確な文例です。

他の文学作品での「襟飾り」の例
芥川の作品以外でも、「襟飾り」は登場します。いくつか引用しながら見てみましょう。
- 夏目漱石の『門』(1910年) 主人公の宗助が街を散策する場面です。「西洋小間物を売る店先では、シルクハットの傍にかけてあった襟飾りに眼がついた。」ここで「襟飾り」は、店頭に並ぶネクタイを指しています。宗助は派手なものを眺め、日常のささやかな楽しみを感じます。この作品は青空文庫で読めますので、興味のある方はぜひ。
- 森鷗外の『舞姫』(1890年) 主人公の豊太郎が恋人のエリスに世話される場面。「襟飾りさへ余が為めに手づから結びつ。」エリスが豊太郎のネクタイを結んでくれるのです。この表現は、明治時代の西洋文化の影響を表しています。鷗外の作品は、近代文学の金字塔です。
- オノレ・ド・バルザックの『ゴリオ爺さん』(邦訳) 「褐色がかってきた襟飾り」という表現が見られます。日本語訳でネクタイ類の装飾を意味します。外国文学の訳でも、この言葉が使われていたのです。
これらの例から、大正・明治時代には「襟飾り」が普通に使われていたことがわかります。文学作品では、古風なニュアンスを出すために選ばれていたようです。
アーカイブや歴史資料での用例
文学以外では、明治時代の礼装規定に登場します。例えば、葬送の装いに関する資料で「襟飾り(ネクタイ)、手袋、手拭を黒とし」とあります。国立国会図書館のデジタルコレクションで確認できます。当時の新聞広告では「襟飾り店」としてネクタイを扱う店が紹介されていました。
こうした資料は、言葉が時代を映す鏡であることを教えてくれます。過去の当たり前が、今の私たちには新鮮に感じられるのです。
言葉の変遷を考える
「襟飾り」が死語になったように、言葉は常に変化します。今日の私たちが使う「スマホ」や「SNS」も、10年後には別の言葉に置き換わるかもしれません。技術の進歩や文化の移り変わりが、言葉を生み出し、消していきます。
例えば、「電話」は固定電話を指していましたが、今は携帯電話が主流です。すでに「電話」という言葉は若い人にはなじみのないものと言っていいでしょう。将来的には、もっと新しい通信手段が出てくるでしょう。言葉の変遷は、歴史を振り返るきっかけになります。文学作品を読むことで、そんな発見ができるのです。
まとめ:言葉の旅を楽しもう
芥川龍之介の「谷崎潤一郎氏」を通じて、「襟飾り」の秘密を探りました。この言葉は、ネクタイの古い表現として過去に普通に使われていましたが、今はほとんど聞かれません。他の文学作品や資料からも、その痕跡が見つかります。言葉の変遷は、時代の本質を教えてくれます。今日の言葉も、いつか変わるかも?そんな視点で本を読むと、もっと面白くなります。文学の魅力に触れてみてください。