ふきんとうだより

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【叡王戦最終局】伊藤匠叡王が10%からの大逆転!斎藤慎太郎八段に勝利した歴史的名局を解説

2勝2敗で迎えた運命の最終局【第10期叡王戦

将棋ファンの皆様、こんにちは。
将棋界の歴史に残るであろう、息を呑むような一局が生まれました。

今回ご紹介するのは、第10期叡王戦五番勝負・最終第5局伊藤匠叡王と挑戦者・斎藤慎太郎八段の対局です。

2勝2敗のフルセットで迎えたこの一局は、どちらが勝ってもおかしくない状況。叡王のタイトルを防衛するのか、新たな叡王が誕生するのか。多くのファンが固唾をのんで見守る中、盤上では人間の知性の限界を試すかのような、壮絶なドラマが繰り広げられました。

本記事では、この歴史的名局を「①戦いの流れ」「②運命の昼食」「③局後のコメント」という3つのポイントから、初心者の方にも分かりやすく、そして深く掘り下げていきます。

対局者とここまでの星取

  • 伊藤 匠 叡王:ここまで2勝。若き天才として、藤井聡太八冠から叡王位を奪取した実力者。本局を防衛し、その地位を確固たるものにしたいところです。
  • 斎藤 慎太郎 八段:ここまで2勝。「詰将棋の名手」としても知られ、その終盤力には定評があります。悲願のタイトル獲得まであと一歩に迫っています。

互いに譲らず迎えた最終局。振り駒の結果、斎藤八段が先手となりました。

息を呑む激闘の棋譜を振り返る

序盤~中盤:斎藤八段、優勢を築く

戦型は、互いに飛車先の歩を突き合う「相掛かり(あいがかり)」となりました。現代将棋を代表する戦法の一つで、序盤から激しい展開になりやすいのが特徴です。

中盤戦、巧みな攻めを見せたのは先手の斎藤八段でした。
的確な駒組みで主導権を握ると、じわじわと伊藤叡王を追い詰めていきます。AIによる形勢判断でも、斎藤八段の勝率は90%を超える場面も。控室のプロ棋士たちも「これは斎藤八段で決まりか」と口にするほど、後手の伊藤叡王は絶体絶命のピンチに立たされていました。

終盤:衝撃の結末へ…盤上が揺れ動く

誰の目にも斎藤八段の勝利が濃厚に見えた終盤戦。しかし、ここから将棋の神様は、私たちに信じられないようなドラマを用意していました。

斎藤八段が勝利を確信して放った一手、▲4四桂。これが、盤面を大きく揺り動かすきっかけとなります。この一手自体は厳しい攻めですが、伊藤叡王に反撃の糸口を与えてしまう危うさも秘めていました。

持ち時間も1分将棋に突入し、極限の集中力が求められる中、伊藤叡王は冷静でした。斎藤八段の猛攻を凌ぎながら、静かに、しかし着実に反撃の準備を整えます。そして、ついにその時が訪れます。

歴史に残る一手「詰み逃れの詰み」

斎藤八段の玉に詰めろ(次に王手をすれば必ず詰む状態)をかけた伊藤叡王。しかし、斎藤八段も伊藤玉に迫っており、一瞬の油断も許されない局面です。

ここで伊藤叡王が放ったのが、△6四香という一手。

これは、自玉の詰みを回避しつつ、相手玉を詰ますという「詰み逃れの詰み」と呼ばれる、将棋の高等テクニックです。この一手により、斎藤玉は即詰みとなり、逆に伊藤玉は詰まなくなってしまいました。

詰将棋解答選手権で優勝経験もある終盤のスペシャリスト、斎藤八段ですら見落としてしまった、まさに神がかり的な一手。これを見て斎藤八段は深々と頭を下げ、投了を告げました。

120手にて、伊藤匠叡王が奇跡の大逆転勝利。見事、叡王のタイトルを防衛しました。

勝負師たちの盤外戦 - 運命の昼食メニュー

緊張感に満ちた対局の合間に取られる昼食は、「勝負めし」としてファンからも注目されます。この歴史的な一局で、両者が選んだメニューがまた興味深いものでした。

両者まさかの「ホテルポークカレー」対決

なんと、伊藤叡王と斎藤八段は、二人ともホテル特製のポークカレーを注文。最終局で同じメニューを選ぶという偶然に、両者の気合がシンクロしたかのようでした。

斎藤慎太郎 八段の注文
・ホテルポークカレー(並盛)
・ミネラルウォーター

伊藤 匠 叡王の注文
・ホテルポークカレー(並盛)
・アイスティー

このカレーは、ゴロッとした大きな豚肉が特徴で、福神漬けやらっきょうが添えられた本格的な一品。激しい戦いを前に、エネルギーを補給するにはぴったりのメニューだったのかもしれませんね。

激闘を終えて - 両対局者のコメント

死闘を演じた両者は、局後にどのような言葉を残したのでしょうか。

伊藤匠叡王のコメント

伊藤は「苦しい時間帯が長く、全く実感がないです」と述べ、最終的に逆転勝利を収めたものの、厳しい局面が続いたと振り返りました。また、一時は勝利が近いと感じた場面もあったようです。

斎藤慎太郎八段のコメント

斎藤は「終盤のミスが思い浮かぶ。反省点」と語り、終盤の競り合いで敗れたことを悔やみました。感情的に影響を受けた様子も見られたと報じられています。

まとめ - 将棋の奥深さを物語る歴史的名局

AIの評価値が一方に大きく傾いても、決して勝負は決まらない。それが将棋というゲームの奥深さであり、面白さです。本局は、そのことを改めて私たちに教えてくれました。

劣勢からの大逆転劇は、人間の精神力、最後まで諦めない心の強さがもたらした奇跡と言えるでしょう。伊藤匠叡王のタイトル防衛は、彼の計り知れない才能と底力を証明するものとなりました。伊藤匠叡王は、これでタイトル2期獲得となり、規定により八段に昇段です。

一方、敗れた斎藤慎太郎八段ですが、その圧倒的な中盤力は、見る者を魅了しました。この悔しさをバネに、彼が今後どのような将棋を見せてくれるのか、ますます目が離せません。

将棋史に刻まれるであろうこの名局。両対局者の健闘に、心からの拍手を送りたいと思います。