前回の第1回では、BYDが世界販売2位にまで急成長した背景として、政府支援、垂直統合、そしてDチェーンという独自の仕組みを紹介しました。
しかし、このDチェーンがBYDの成長を支える一方で、部品メーカー(サプライヤー)側に新たな課題を生んでいるという報道が増えています。
この第2回では、報道や公表情報を基に、Dチェーンがサプライヤーの支払いにどんな影響を与えているのかを、中立的に丁寧に解説します。
最新の動きとして、2025年11月のBYDによるDチェーン廃止方針も含めてお伝えします。
部品メーカーの支払い期間は平均275日 業界平均の2倍超
BYDのサプライチェーンは1万社以上を巻き込み、巨大なネットワークを形成しています。
しかし、日経新聞やBloombergの報道によると、BYDの部品メーカーへの支払い期間は2023年に平均275日と、自動車業界平均の約2倍に達していました。
これにより、サプライヤーは納品後も長期間現金が入ってこない状況が続いていると指摘されています。
2025年に入ってからも、平均支払い期間は127日から285日程度と報じられており、業界標準の108日を上回るケースが多いようです(Reuters、2025年11月報道)。
「現金の代わりに渡される電子証明書」Dチェーンの実態
Dチェーン(迪鏈、Dilianとも表記)は、BYDが2016年頃に導入したデジタルプラットフォームです。
ブロックチェーン技術を活用し、部品納品に対して現金ではなく「電子債権証書」を発行します。
この証書は、BYDの信用を担保としたもので、サプライヤーはこれを保有したり、他の取引先に譲渡したりできます。
しかし、報道ではこの仕組みがサプライヤーの資金繰りを複雑にしている点が注目されています。
納品後すぐに現金化できる? →手数料8〜10%が必要
サプライヤーはDチェーンを金融機関で割引(早期現金化)できますが、手数料として8〜10%が引かれると複数のメディアで報じられています(Bloomberg、2025年6月)。
この手数料はサプライヤー負担のため、早期に資金が必要な中小企業にとっては負担が大きいようです。
満期まで待てば手数料ゼロだが9〜12ヶ月待機
一方、満期(通常納品後9〜12ヶ月)まで待てば手数料なしで現金化できます。
しかし、この長期間の待機はサプライヤーのキャッシュフローを圧迫し、事業継続に影響を与える可能性があると、中国メディアの報道で指摘されています。
例として、LinkedInの記事(2025年6月)では、EV部品メーカーが「Dチェーンにより資金回転が悪化し、投資が遅れている」との声が紹介されています。
中国政府が2025年6月に新条例施行「60日以内の支払い義務化」
こうした状況を受け、中国政府は2025年6月に「中小企業支払保証条例」を施行しました。
この条例では、大企業が中小サプライヤーへの支払いを60日以内に義務付け、非現金手段の強制を禁止しています。
BYDを含む17の自動車メーカーがこの条例に対応を表明し、BYDは「支払いを加速させる」との声明を出しました(Bloomberg、2025年6月)。
これにより、業界全体の支払い環境が改善される期待が高まっています。
それでも現場では「抜け道が多い」との声
しかし、中国メディアの報道によると、現場では「納品確認の遅れ」や「契約の工夫」で実質的な支払いが遅れるケースが残っているようです(2025年9月、人民日報系メディア)。
サプライヤーからは「条例施行後も変化が少ない」との声が相次いでおり、完全な移行には時間がかかるとの見方が広がっています。
最新の動きとして、2025年11月のReuters報道では、BYDがDチェーンを段階的に廃止し、商業手形や銀行振込への移行を進めていることが明らかになりました。
これにより、支払い遅延の解消が進む可能性がありますが、移行期間中の混乱も懸念されています(Seeking Alpha、2025年11月)。
香港調査会社GMT Research「BYDの実質負債は公式の10倍以上」と指摘
香港の調査会社GMT Researchは、2024年6月のレポートで、BYDの公式純負債(277億元)を大幅に上回る実質負債を指摘しています。
Dチェーンなどのサプライチェーン融資を考慮すると、負債は3,230億元(約7兆円)に達すると分析されています。
このレポートは、DチェーンがBYDの財務を「健全」に見せかけている可能性を指摘し、投資家に警鐘を鳴らしています。
2025年12月の最新報道(Bamboo Works)でも、中国中央銀行が類似のIOUシステムを規制強化している中、BYDの負債管理が注目されています。
| 項目 | 公式報告 | GMT Research推定 | 参考報道 |
|---|---|---|---|
| 純負債 | 277億元 | 3,230億元 | Bloomberg(2025年6月) |
| 支払い期間 | 平均127〜285日(2025年) | 業界平均の1.5倍以上 | Reuters(2025年11月) |
| 手数料 | 8〜10%(早期現金化) | サプライヤー負担 | LinkedIn記事(2025年6月) |
サプライヤーからは「資金繰りが厳しい」「早期現金化せざるを得ない」証言相次ぐ
複数の報道で、サプライヤーの証言が紹介されています。
例えば、「資金繰りが厳しく、8%の手数料を払ってでも現金化せざるを得ない」(中国EV部品メーカー、2025年6月報道)や、「Dチェーン依存で事業計画が立てにくい」(中小サプライヤー、Bloombergインタビュー)といった声です。
- 2025年11月のSeeking Alphaでは、廃止方針によりサプライヤーの圧力が軽減される可能性を報じています。
- 一方、Taipei Times(2025年6月)では、DチェーンがBYDの供給網コントロールを強め、サプライヤーの独立性を損なうとの分析もあります。
- 最新のGuruFocus報道(2025年11月)では、規制変化によりBYDのESG(環境・社会・ガバナンス)評価が向上するとの見方も出ています。
これらの証言は、DチェーンがBYDの成長に寄与した一方で、サプライヤー側に負担を強いている実態を示しています。
まとめ:Dチェーンは成長の鍵だったが、課題も浮上
報道から見る限り、DチェーンはBYDの資金効率を高めた仕組みですが、サプライヤーの支払い遅延や手数料負担が新たな問題として表面化しています。
政府の条例やBYDの廃止方針により、状況は変化しつつあります。
しかし、これが中国経済全体にどんな影響を与え始めているのか、気になるところです。
第3記事では、この仕組みが中国経済全体にどんな影響を与え始めているのか、最新の動きを見ていきます。
(第3回に続く)